本井英句集『守る』鑑賞。その3

  煮凝がごはんで溶けてゆくかをり

  「煮凝」が季題で冬。魚などを煮た汁が固まったものを言います。わざわざ固めた料理も「煮凝」ですが、この句の場合は昨晩の残りを朝食にしている感じでしょうか。ご飯は炊きたてで、煮魚の残りを冷たいまま載せて食べようとしているのです。ご飯にのせたところから煮凝が溶けてきて、食欲をそそる香りが漂ってきます。食べ物の俳句は、おいしそうに詠めとはよく言われることですが、やや無作法な食べ方であるところが余計に食欲を刺激してきます。それでいて、「煮凝」という季題も「かをり」という措辞も決して下品ではなく、絶妙な仕上がりになっています。
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本井英句集『守る』鑑賞。その2

  薔薇の名となりてより幸薄かりき

 「薔薇」が季題で夏。薔薇の名前には、人名をそのままとったものも多くあります。亡くなってから薔薇の名となる場合もありますが、この句の場合には、生前に自らの名前を冠した薔薇の新品種を捧げられたわけです。作者がその薔薇の前に立ったとき、既にその人は故人となっています。振り返ってみると、薔薇の名となった頃がその人の絶頂期で、その後は幸せとは言えない人生だったと思われたのです。華やかな薔薇を前にして、そうした感慨にとらわれたという俳句です。例えば、誰がこれに当てはまるかと考えてみましたが、「マリア・カラス」ならこの句の世界にマッチしそうです。世界最高のソプラノ歌手だった彼女が歌えなくなり、最後は謎の死を遂げる、そうしたことを思いながらピンクの薔薇を見つめているという感じでしょうか。
 薔薇の名はバラエティ豊かで俳句の題材になりやすいですが、名前の物珍しさや音の面白さに寄りかかってしまいがちです。この句は、眼前の薔薇とその人の没落を二重写しにしていて味わい深いと思いました。

「​『稲畑汀子俳句集成』読書会​ ​わたしの汀子俳句」

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 昨日、『稲畑汀子俳句集成』読書会に参加してきました。「育」のテーマで選んだ10句を持ち寄って、鑑賞しました。私は、そのまま子育て俳句から選びましたが、「育」を幅広く捉えて選んだ方もいて、面白い話になりました。皆様、お世話になりました。