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俳諧師 前北かおる

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鬼頭桐葉句集『初明り』。


Category: 俳句 > 句集鑑賞その他   Tags: 鬼頭桐葉  初明り  ふらんす堂  
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 鬼頭桐葉さんの遺句集『初明り』(2019年7月、ふらんす堂刊)を送っていただきました。ありがとうございます。
 岡井省二に師事されていた方のようで、ほかに『春蘭』という句集があるとのことです。お年を召してからの開き直ったような遊びの世界に惹かれました。素朴な調べ、言葉はどこかわらべ唄のようでもあり、心に響きました。

  木守柿ゆきつく先の見えてきし
 「木守柿」が季題で冬。枝に残してある木守柿を見ながら、自分の人生のゆきつく先がだんだん見えてきたことだと感慨にふけっているのです。既にほかの実がとられてしまった後の木守柿は、あわれでもありますし、最後まで命を全うしようとしていると見ることもできます。見ている人もまた、充実した時間を経て、近しい人に別れたのでしょう。そしていま「ゆきつく先」に思いを致しているのです。平明に叙してありますが、「木守柿」という季題から作者の人生が思われて、味わい深い一句です。

  竹林のさわりさわりと朧月
  鳥雲にみんな入つてしまひけり
  艀溜り土手の椿がころころと
  きこえないことはよろしくうらうらと
  枝移るうぐひすのこゑちらしがき
  予定などなくて五月の青い空
  手をあげし合図でとまる作り滝
  一匹の蚊に煌煌と部屋灯す
  鱧のすし買うてうれしき重さかな
  貝割菜ぱつと散らせしお味噌汁
  あつとすべりて松茸と対面す
  燈火親し一つをともし一つ消し
  あき風のすうつとぬけてゆく小窓
  赤とんぼ一匹とべば庭ひろし
  たえず風唄うて山の深ねむり
  黐の木にひよどりのこゑ初御空
  風花でかざつてみたき睫毛あり
  師走とて今更なにをそはそはと
  木守柿ゆきつく先の見えてきし
  束ねたる髪に赤い実雪女
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テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学

中原道夫句集『彷徨(UROTSUKU)』。


Category: 俳句 > 第一句集『ラフマニノフ』   Tags: 銀化  中原道夫  彷徨(UROTSUKU)  ふらんす堂  
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 「銀化」主宰の中原道夫さんから句集『彷徨(UROTSUKU)』(2019年2月、ふらんす堂刊)をいただきました。ありがとうございました。
 海外詠だけを収めた一冊で、既刊句集に収録済みの作品、総合誌等に発表された作品が収録されています。「あとがき」に、50年間で地球5周くらい旅をしたのではないかと書いていらっしゃいますが、豊かな題材に目を見張らされる句集でした。

  炊き出しに並ぶ毛布の穴から手
 「毛布」が季題で冬。「妄執の櫂(インド二〇一六・冬)36句」と題された中の一句で、「喜捨に因る炊き出しを煮る大鍋が街角に出て」との詞書が付されています。炊き出しの列の中に毛布を頭からかぶっている人が並んでいたのです。目が見えているのか見えていないのかもわかりませんが、ちゃんと列について進んでいます。そして、自分の順番がまわってくると、毛布の隙間から手だけを出して食事を受け取ったのです。その人物の身の上を想像すると哀れですが、作者の目はどちらかと言えばドライです。異様な風体の人物に興味を持って見ていたところ、ちょっと面白い場面に出くわしたという感じでしょうか。それが、「穴から手」という下五にコミカルに表現されています。俳諧らしい味付けの一句です。

    ニューヨーク
  撒水車虹造らむと唸るなり
    (アテネ)アクロポリスの丘
  石柱を遠まきにして青き踏む
    土耳古紀行/イスタンブール・ガラタ橋
  対岸は亜細亜よ草の絮飛べる
    (トルコ・イスタンブール)
  茶(チャイ)飲んでゆかれよ秋雨上がるまで
    玖馬紀行/ハバナ
  革命ののちの夜暗し十字星
    (キューバ/ハバナ)『老人と海』の舞台コヒマル
  朝凪や大魚逃せし舟戻る
    (メキシコ)折しも十一月二十日は
  覇王樹の犇く革命記念の日
    (メキシコ/ユカタン半島)チャックモール(生贄の台)
  月の夜のまだあたたかき贄を置く
    (ニューヨーク)
  街騒を以て短夜みじかくす
    (ニューヨーク)E86st.ノイエ・ギャラリー エゴン・シーレ
  夏痩せの己を描くほかはなし
    (フィレンツェ)
  修復に修復かさぬ冬の薔薇
    ヴェネツィア
  迷宮は出口入口なく冷えて
    (ヴェネツィア)
  寒疣に無縁の天使ばかりなる
    (モロッコ)
  ひと瘤にまたがり春の逝く方へ
    (モロッコ)オート・アトラス山脈ティシカ峠
  天近く斑雪に羊放ちゐて
    (フェズ)
  つつ抜けの中庭(リヤド)の声やレモンの黄
    (パリ)十一月十五日パリ・シャルル・ド・ゴール空港着
  服喪かな全土凍てつく燈を落とし
    (インド)喜捨に因る炊き出しを煮る大鍋が街角に出て
  炊き出しに並ぶ毛布の穴から手
    (インド)
  終生は乞食とのみ冬の蠅
    (インド)
  伽羅を嗅ぎ白檀を聞き年つまる

※正字を常用の字体にあらためて紹介しました。
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学

伊藤隆句集『筆まかせ』。


Category: 俳句 > 句集鑑賞その他   Tags:  伊藤隆  筆まかせ  ふらんす堂  
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 「」同人の伊藤隆さんから句集『筆まかせ』(2018年11月、ふらんす堂刊)をいただきました。ありがとうございました。
 第一句集シリーズに連なる一冊です。作者は書道家としても活躍されている方だそうで、実際に書道や文字を題材にした俳句が多数収録されています。そのこだわりが独自の世界を成しているように感じました。

  半熟の卵のやうな熱帯夜
 「熱帯夜」が季題で夏。最低気温が25度を下回らない夜を言います。エアコンをつけずに外の風を入れて過ごしているのでしょう。湿度も高くどうにも過ごしにくい状況を、「半熟の卵」にたとえた俳句です。確かに、あの黄身の粘り気や白身のぐずぐずになった感じは、熱帯夜を思わせる気がします。非常に感覚的な比喩ですが、それがぴたりとはまっていると思いました。

  同じ日に生まれた人と日向ぼこ
  立春大吉漢字ばかりの国にゐて
  馬の字は立ち姿なり寒の入
  白檀の墨の香りようららけし
  なにとなくそはそはしたる浴衣かな
  宿墨に追磨りをする秋の夜
  受付の懸崖菊の香りかな
  八角の匂ひどこから春隣
  筆掛けの筆の毛ふはと春立てり
  外郎の茶色桃色風涼し
  半熟の卵のやうな熱帯夜
  読点を入れて一息夜の秋
  四幅の全紙の書軸お風入
  金粉のほろほろ沈む年の酒
  水槽を洗ふ漁師に南風
  青みたる墨を磨りたる夏越かな
  室生寺の山門前のとろろ汁
  颯爽と手旗信号寒日和
  つくしんぼ褒められてまた伸びるやも
  雄渾の二幅の草書松の芯
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学

佐藤郁良句集『しなてるや』。


Category: 俳句 > 句集鑑賞その他   Tags: 群青  佐藤郁良  しなてるや  ふらんす堂  
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 夏季俳句指導講座でお世話になっている佐藤郁良さんから句集『しなてるや』(2019年1月、ふらんす堂刊)をいただきました。ありがとうございました。
 共同代表を務められている「群青」を創刊する直前の平成24年から6年分の作品を収録した第三句集とのことです。タイトルは「鳰の湖(琵琶湖)」にかかる枕詞から取られていて、琵琶湖周辺の吟行句も多数収められています。表現の上で言えば、題材を絞り込んだ上で、余計な余白を作らないように言葉を使っているような印象を受けました。

  寄せ植ゑのごとき入学写真かな
 「入学」が季題で春。入学式が終わり、クラスごとの集合写真を撮っているのでしょう。出会ったばかり生徒達はまだ緊張していて、言われるがままに並び、撮影されています。同じ場所で卒業写真を撮ったはずですが、その時とはまるで違う雰囲気です。「寄せ植ゑのごとき」と言われてみると、その馴染まない様子がよく伝わってきますし、屋外の撮影らしいことも想像されます。また、微笑ましい生徒達を見守る作者の暖かい視線もまたよろしいと思いました。

  秋寒や点かずに折るる紙燐寸
  一斉に春着の動く交差点
  文机は白山茶花に向いてをり
  煤逃の半券がまだポケットに
  昼酒の近江に年を惜しむなり
  寄せ植ゑのごとき入学写真かな
  吊つて売るたこせんべいや花海桐
  台風が遠くあるてふ海の紺
  湯煎して蜜よみがへる冬至かな
  温室の中の時計が狂ひをり
  家ぢゆうが角張つてゐるお正月
  海女若し火につややかな脚を投げ
  菜の花の中の鉄道研究部
  たんぽぽにアパートの蝕まれゆく
  滝しぶき蝶の飛翔を乱しけり
  中つ世の鑿跡粗し山滴る
  さまざまな道具に埋もれ綿を繰る
  秋雨の一日をつかふ糸車
  鉛より青く暮雪のオホーツク
  たたなづく彼方より出て雪解川
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学

中田尚子句集『一声』。


Category: 俳句 > 句集鑑賞その他   Tags: 中田尚子  一声  ふらんす堂  
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 俳句指導講座でご一緒させていただいている中田尚子さんから句集『一声』(平成30年12月、ふらんす堂刊)をいただきました。ありがとうございました。
 俳人協会新人賞を受賞された『主審の笛』に続く第二句集とのことです。震災後、いわきでの吟行を続けていらっしゃるほか、身近な人を亡くされたり、定年退職されたりといった身辺の変化も詠われています。基調となる少ない素材で点景を描いた作品に、こういった情のこもった俳句が加わることで、味わい豊かな句集となっています。

  別れきし白鳥空に現はるる
 「白鳥」が季題で冬。湖か池かわかりませんが、先ほどまで白鳥を見ていたのです。去りがたい気持ちはありながらも、白鳥に別れて引き返してきたのでしょう。すると、背後から白鳥が飛んできて頭上の空に現れたのです。作者は、青空を背景に首を伸ばし大きく翼を広げた姿に息を呑むと同時に、別れがたい気持ちが通じたようで嬉しくなったことでしょう。「別れきし白鳥」から間髪を入れずに「空に現はるる」と展開することで、その瞬間の喜びを読者も追体験できます。一瞬の感動を伝えるダイナミックな表現にうならされる一句です。

  対角線歩いて冬の噴水へ
  難しき顔に戻れる焼芋屋
  風車刺さるスリッパラックかな
  汽笛一声耕人を呼ぶやうに
  壺焼の一つ遅れて来たりけり
  月朧二度と会へなくなりにけり
  端居して夢見る頃のやうにあり
  蟻地獄赤きリボンの靴止まる
  別れきし白鳥空に現はるる
  春風や壁一面に詩の書かれ
  まだ誰も知らぬ決心朴の花
  三人の凭るる一樹風涼し
  杖置いて涼しき風の中にゐる
  初秋の義母に何度もありがたう
  坂上り切るまで虹の残りけり
  秋草に舳先食ひ込ませて止まる
  作りたる手より新米もらひけり
  黄落や手にぶら下げてヘッドホン
  黒板の冷たさを背に立ちにけり
  菜の花の色をクラスの色と決む
  
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学
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プロフィール

前北かおる

Author:前北かおる
 昭和53年4月28日生まれ。慶應義塾大学俳句研究会、「惜春」を経て、「夏潮」創刊に参加する。第1回黒潮賞受賞。「夏潮」運営委員を務める。平成23年5月、第一句集『ラフマニノフ』を上梓。平成27年12月、第二句集『虹の島』を上梓。千葉県八千代市在住。

 
 
 
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