FC2ブログ

俳諧師 前北かおる

虹の島年に何度も合歓の咲く――第二句集『虹の島』好評発売中!

 

小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞。最終回


Category: 俳句 > 小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞   Tags: 小沢藪柑子  商船旗  ふらんす堂  
 20句鑑賞が終わりましたので、最後に蛇足を書いてみたいと思います。
 『商船旗』を読んで感じたのは、緻密な俳句が多いということです。一語一語の意味、その組み合わせによって浮かび上がる意味を厳密に考慮して定型に収めてあるという印象を持ちました。実際には眼前にある景から省略によって言葉をそぎ落として一句にしているのでしょうが、景の中の要素を一度ばらばらに分解した上で言葉の力で再構築してあるようなゆるぎのなさを感じました。
 例えば、
  哺乳瓶仔馬の顎に手をあてて
という句の、「哺乳瓶」。上五のこの一語で仔馬の置かれた状況と、それに携わる人間の愛情が表現されてしまっています。直接人間とは言っていませんが、「手をあてて」が厩務員の動作であることは既に自明です。実際の動作の順序としては「馬の仔の顎に手をあて哺乳瓶」なのでしょうが、これでは台無しです。唐突に「哺乳瓶」と打ち出したことで詩になっているのですが、簡単にはできない配置だと思います。
 焦点をぎりぎりまで絞ることで得た句がある一方で、空間を広げ、時間を長くとることで大成功した句もあります。
  源流へ向かふ踏跡山の春
この句の場合には、何と言っても「山の春」という季題が眼目です。もちろん「源流へ向かふ踏跡」も一語一語吟味された表現ではあります。しかし、下五に「山の春」という大きな季題を配置したことがこの句のスケールを大きくしているのです。普通は、草花などの季題を置いて景に臨場感を与えたくなるところだと思います。そうはせずに景全体をすっぽり覆う季題を選択したことで、中流、河口へ向けての水の流れや、雪解けに始まり梅雨に至る沢の様子が止めどもなく想像される句になっています。
 「序に代えて」で本井英先生は「空間把握」と書かれていますが、私なりの言い方をすれば、語と意味の対応、組み合わせによる効果を厳密に考えながら景を再構築してある、となろうかと思います。これが、クリアーでありながら味わいのある藪柑子さんの俳句の秘密ではないでしょうか。
スポンサーサイト
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学

小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞。その20


Category: 俳句 > 小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞   Tags: 小沢藪柑子  商船旗  ふらんす堂  
  茶色とも黒ともつかぬ毛虫かな
 「毛虫」が季題で夏。茶色とも黒とも言えないような色合いの毛虫であることよ、という俳句です。何か特別なことを言っているわけではありません。しかし、「~とも~ともつかぬ」と余裕ある調子で詠ったことで、毛虫に対する一種の憐れみが表現されています。花鳥諷詠らしい俳句ではないでしょうか。
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学

小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞。その19


Category: 俳句 > 小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞   Tags: 小沢藪柑子  商船旗  ふらんす堂  
  いちめんの代田のなかの交差点
 「代田」が季題で夏。「富山 二句」と前書があります。見渡す限りの田植えを待つ代田、その真っ平らな景色の中の交差点よ、という俳句です。きっちり真四角に区画整理された田の中に、真っ直ぐに走る道同士が交差しているのでしょう。「いちめん」、「なか」と仮名を使ったことで、幾何学的な景に少しやわらかさが出ていると思います。
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学

小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞。その18


Category: 俳句 > 小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞   Tags: 小沢藪柑子  商船旗  ふらんす堂  
  帰らないラヂオゾンデを春風に
 「春風」が季題で春。「ラヂオゾンデ」というのは、ゴム気球につけて飛ばされる気象観測機器で、日本から飛ばされるものは最後は太平洋に落下するそうです。その帰ってくることのない「ラヂオゾンデ」を、春風にのせて飛ばしてやっているという俳句です。「春風に」と動詞を省略した下五が、感傷的な余韻を作り出しています。「ラヂオゾンデ」という思いを寄せにくそうな対象を甘く詠って詩にしたところに面白さがあると思いました。
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学

小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞。その17


Category: 俳句 > 小沢藪柑子句集『商船旗』鑑賞   Tags: 小沢藪柑子  商船旗  ふらんす堂  
  源流へ向かふ踏跡山の春
 「山の春」が季題で春。谷を登り詰めていくと、最後に山頂へ向けて道は沢を外れていきます。登山者はそちらを辿るのですが、よく見ると水源とおぼしき方へ誰かが踏み入った跡があるのです。考えてみると、この沢は次第に水を集めて大河となって海に注ぐのです。その源流を訪ねたくなった人に思いを馳せるにつけても、山にようやくやって来た春が喜ばれることだという俳句です。
 「源流」という名詞によって中流、下流を思い起こさせ、「向かふ」という動詞は読者の気持ちを「源流」に運びます。非常に情の濃い俳句なのですが、「山の春」という大きな季題が重しになっています。一点の曇りもない望月のような名句です。
テーマ : 俳句    ジャンル : 小説・文学
08 2019
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

07

09


 
月別アーカイブ
 
プロフィール

前北かおる

Author:前北かおる
 昭和53年4月28日生まれ。慶應義塾大学俳句研究会、「惜春」を経て、「夏潮」創刊に参加する。第1回黒潮賞受賞。「夏潮」運営委員を務める。平成23年5月、第一句集『ラフマニノフ』を上梓。平成27年12月、第二句集『虹の島』を上梓。千葉県八千代市在住。

 
 
 
 
初めての俳句
初めての俳句。ご自分の感興、感動を五七五にするために。
 
『夏潮』Web俳句鑑賞を担当しています。お気軽にご投稿ください。
 
ブログランキング

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 ポエムブログ 俳句へ
 
メールフォーム
ご意見、ご感想などをお寄せください。

名前:
メール:
件名:
本文:

 
QRコード
QRコード
 
★★★
 


Archive RSS Login