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杉原祐之句集『先つぽへ』鑑賞。その1

 杉原祐之君が第一句集『先つぽへ』を出版しました。題からして俳諧味に溢れています。にもかかわらず、本人の「あとがき」をはじめ、本井英先生の「序」、三村純也先生の「栞」も妙に澄ました文章で、この一冊の味わいからやや外れているような感じがします。私もどこかから依頼されれば真面目ぶって紹介を書くつもりですが、その前に自由に書かせてもらおうと思います。

Ⅰ.水鉄砲 (慶大俳句時代)
長き夜へ夜行列車の発車せる
 「長き夜」が季題で秋。夜長と一晩中走る夜行列車とは、不動の取り合わせといっていいでしょう。既に夜行列車が瀕死となっていることを思うと、なおさら感慨があります。
 ところで、花鳥諷詠派は潔くないせいか、あまり「発車せり」という切れを好みません。切るなら「発車かな」とすることが多いです。「発車せる」と連体形にするのは、その後に「長き夜」を匂わせる効果を狙っているからです。この句の場合は、それがはまっていて、「夜行列車」の駆けるその「長き夜」を読者に想像させます。「発車せり」では「夜行列車」に興味が集中して、季題が添え物になってしまいます。非常に巧みな句です。

目の前で水着を絞る女かな
 「水着」が季題で夏。「女かな」というのは昔からよくある下五で、男が女をわかったふりしてひとくくりにする時の言い回しです。「目の前で水着を絞る」は、子連れでプールに着ている草臥れた母親というような風情かと思います。恋人とか妙齢の女性とか色気のある想像をするのは違うような気がします。実は大した景ではないのですが、「女かな」と言ったことで俳諧になっています。

里神楽やかんで酒を注ぎ回り
 「里神楽」が季題で冬。「高千穂、椎葉」と詞書があります。俳句に詠まれる神楽は全て「里神楽」ですが、それでも特に「里神楽」という場合には、宮中の神楽と違ってということを強調する気持ちがあると思います。「やかんで酒を注ぎ回り」と周辺の描写をすることで、うまく「里神楽」の雰囲気を出しています。「茶の薬缶酒の薬缶と里神楽」の句もありますが、こちらは分析してしまっていて場の空気を伝えられていません。

御利益を全部貼り付け熊手かな
 「熊手」が季題で冬。季題の「熊手」というのは、酉の市で売られている縁起物の熊手のことです。「商売繁盛」、「家内安全」、「五穀豊穣」というような文句を「御利益を全部」とまとめたことをどう評価するかという俳句というです。私は、ぎりぎりのところで踏みとどまって、勢いが出ていると思います。祐之君らしい大雑把な把握が大成功している例です。

菜の花のもつと濃い色だつたはず
 「菜の花」が季題で春。集中の秀逸の一句だと思います。菜の花の色が思ったより淡かったということを言っているわけですが、それを淡かったと言わずに「濃い色だつたはず」と言ったところに「あはれ」があります。口語で詠嘆することによって、淋しさが滲み出てきたと思います。
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Comments

なるほど 
取り上げられたどの句の解釈も、まるでその現場に立ち会われていたかのように鮮明で印象的な解釈です。
関心仕切りであります。
表現を変えるとどういう風に伝わるか、ごちゃごちゃ弄った俳句より、結果そうなった俳句ばかりが集中に収められている気がします。
それが、勢いと言うものなのでしょうか。技は磨けないですね。
お褒めに 
あずかり光栄です。いろいろ弄って俳句を作るのは、素振りみたいなものだと考えましょう。好球が来た時に、打ち返せるよう鍛錬しているということですね。

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プロフィール

前北かおる

Author:前北かおる
 昭和53年4月28日生まれ。慶應義塾大学俳句研究会、「惜春」を経て、「夏潮」創刊に参加する。第1回黒潮賞受賞。「夏潮」運営委員を務める。平成23年5月、第一句集『ラフマニノフ』を上梓。平成27年12月、第二句集『虹の島』を上梓。千葉県八千代市在住。

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『夏潮』Web俳句鑑賞を担当しています。お気軽にご投稿ください。
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