杉原祐之句集『先つぽへ』鑑賞。その6
Ⅵ.「海女小屋」平成二十一年
成人式終へて上りの特急に
「成人式」が季題で冬。上京して大学に通っているのでしょうか、下宿先の自治体の成人式では知り合いもいないので、実家に帰って成人式に出席したのです。同窓会があったり、久しぶりに顔を合わせた友人と積もる話もあるのでしょうが、試験も迫っていて、明日の授業に出ないわけにも行きません。後ろ髪引かれる思いで特急列車に飛び乗ったというのです。無駄なく叙していますが、広がりのある句だと思います。
レーダーや小雪のやうな雪女
「雪女」が季題で冬。「雪籠のレーダー整備員」と詞書。雪に閉じ込められている山上のレーダーで、整備員がまるで女優の小雪のような雪女に出逢ったという句。「雪女」という季題は、怖ろしいものでありながらどこか心ひかれる気持ちがあるというのが、その本情だろうと思います。そう考えると、「小雪のやうな」というのはうまいと思います。「レーダーや」という切れも物語性があって面白いです。
蘆の角ビニール袋引掛かり
「蘆の角」が季題で春。蘆の芽にビニール袋が引っ掛かっているというだけの句ですが、あまりきれいにされていない池や沼の感じがよく出ています。この場合、ぶっきらぼうな詠いぶりもはまっていると思います。
耕のすつかり終り雨を吸ふ
「耕」が季題で春。土がきれいに均してあって、いかにも耕したてという畑の土が、折から降り出した雨を吸って潤っているという句。まるで、これから植えられる種や苗を迎える準備をしているようです。「終り」と言っているので作者が耕したわけでもなさそうですが、自分の畑を見ているかのような満足感に溢れています。「すつかり」の語に気持ちがこもっていると思います。
釣堀の水匂ひくるホームかな
「釣堀」が季題で夏。市ヶ谷駅あたりでしょうか、プラットホームに立っていると、駅の外に見えている釣堀の方から水の匂いが漂ってきたというのです。梅雨の頃の気温、湿度ともに高い空気の感じが出ています。曇っている日とか日暮れ頃とか、日光が十分に届いていないところを想像しました。
ほうたるにグッドラックと呟ける
「ほうたる」が季題で夏。「石の湯ロッジにて 五句」のうちの一句。一人で螢を見ているのでしょう、強く光って飛び立った一匹に「グッドラック」と呟いてみたという句。気取った句ですが、パートナーを求めてさまよう螢に対して、同じ独り身の男として共感を寄せる淋しさがあってなかなか味わい深いと思います。
叱られに会社へ戻る秋の暮
「秋の暮」が季題で秋。普段なら直帰ということでサボって帰ってしまうところなのでしょうが、トラブルがあって出先から会社に戻らなければならなくなったのです。秋は暮れるのが早く余計に焦りますし、これから上司に叱られることを思うと気が重いというわけです。「叱られに」という上五が一句の雰囲気を支配していて巧みです。
杉原祐之句集『先つぽへ』、題材がバラエティーに富んでいて大変面白かったです。虚子に「秋風や眼中のもの皆俳句」がありますが、暇さえあれば旅や祭に出掛ける積極性が句材の幅を支えているのだと思いました。そして、それによって作者の想像力が培われていく過程をなぞることができたのも興味深かったです。後半は想像の翼によって実景から飛躍した句が続出して、今後どんな作品が生まれるのか楽しみになりました。大変お目出度いことを控えていらっしゃるようですので、また新たな句境を切り開いた第二句集に期待しましょう。
成人式終へて上りの特急に
「成人式」が季題で冬。上京して大学に通っているのでしょうか、下宿先の自治体の成人式では知り合いもいないので、実家に帰って成人式に出席したのです。同窓会があったり、久しぶりに顔を合わせた友人と積もる話もあるのでしょうが、試験も迫っていて、明日の授業に出ないわけにも行きません。後ろ髪引かれる思いで特急列車に飛び乗ったというのです。無駄なく叙していますが、広がりのある句だと思います。
レーダーや小雪のやうな雪女
「雪女」が季題で冬。「雪籠のレーダー整備員」と詞書。雪に閉じ込められている山上のレーダーで、整備員がまるで女優の小雪のような雪女に出逢ったという句。「雪女」という季題は、怖ろしいものでありながらどこか心ひかれる気持ちがあるというのが、その本情だろうと思います。そう考えると、「小雪のやうな」というのはうまいと思います。「レーダーや」という切れも物語性があって面白いです。
蘆の角ビニール袋引掛かり
「蘆の角」が季題で春。蘆の芽にビニール袋が引っ掛かっているというだけの句ですが、あまりきれいにされていない池や沼の感じがよく出ています。この場合、ぶっきらぼうな詠いぶりもはまっていると思います。
耕のすつかり終り雨を吸ふ
「耕」が季題で春。土がきれいに均してあって、いかにも耕したてという畑の土が、折から降り出した雨を吸って潤っているという句。まるで、これから植えられる種や苗を迎える準備をしているようです。「終り」と言っているので作者が耕したわけでもなさそうですが、自分の畑を見ているかのような満足感に溢れています。「すつかり」の語に気持ちがこもっていると思います。
釣堀の水匂ひくるホームかな
「釣堀」が季題で夏。市ヶ谷駅あたりでしょうか、プラットホームに立っていると、駅の外に見えている釣堀の方から水の匂いが漂ってきたというのです。梅雨の頃の気温、湿度ともに高い空気の感じが出ています。曇っている日とか日暮れ頃とか、日光が十分に届いていないところを想像しました。
ほうたるにグッドラックと呟ける
「ほうたる」が季題で夏。「石の湯ロッジにて 五句」のうちの一句。一人で螢を見ているのでしょう、強く光って飛び立った一匹に「グッドラック」と呟いてみたという句。気取った句ですが、パートナーを求めてさまよう螢に対して、同じ独り身の男として共感を寄せる淋しさがあってなかなか味わい深いと思います。
叱られに会社へ戻る秋の暮
「秋の暮」が季題で秋。普段なら直帰ということでサボって帰ってしまうところなのでしょうが、トラブルがあって出先から会社に戻らなければならなくなったのです。秋は暮れるのが早く余計に焦りますし、これから上司に叱られることを思うと気が重いというわけです。「叱られに」という上五が一句の雰囲気を支配していて巧みです。
杉原祐之句集『先つぽへ』、題材がバラエティーに富んでいて大変面白かったです。虚子に「秋風や眼中のもの皆俳句」がありますが、暇さえあれば旅や祭に出掛ける積極性が句材の幅を支えているのだと思いました。そして、それによって作者の想像力が培われていく過程をなぞることができたのも興味深かったです。後半は想像の翼によって実景から飛躍した句が続出して、今後どんな作品が生まれるのか楽しみになりました。大変お目出度いことを控えていらっしゃるようですので、また新たな句境を切り開いた第二句集に期待しましょう。
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