本井英句集『守る』鑑賞。その2

  薔薇の名となりてより幸薄かりき

 「薔薇」が季題で夏。薔薇の名前には、人名をそのままとったものも多くあります。亡くなってから薔薇の名となる場合もありますが、この句の場合には、生前に自らの名前を冠した薔薇の新品種を捧げられたわけです。作者がその薔薇の前に立ったとき、既にその人は故人となっています。振り返ってみると、薔薇の名となった頃がその人の絶頂期で、その後は幸せとは言えない人生だったと思われたのです。華やかな薔薇を前にして、そうした感慨にとらわれたという俳句です。例えば、誰がこれに当てはまるかと考えてみましたが、「マリア・カラス」ならこの句の世界にマッチしそうです。世界最高のソプラノ歌手だった彼女が歌えなくなり、最後は謎の死を遂げる、そうしたことを思いながらピンクの薔薇を見つめているという感じでしょうか。
 薔薇の名はバラエティ豊かで俳句の題材になりやすいですが、名前の物珍しさや音の面白さに寄りかかってしまいがちです。この句は、眼前の薔薇とその人の没落を二重写しにしていて味わい深いと思いました。
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