朝吹英和句集『夏の鏃』。

朝吹英和さんから句集『夏の鏃』(平成22年10月、ふらんす堂刊)をいただきました。ありがとうございます。
第3句集とのことですが、第1句集『青きサーベル』、第2句集『光の槍』からの自選20句と、それぞれの句集の評が掲載されていて、これまでの創作の全体像を俯瞰できる一冊になっています。
音楽や美術、宗教の世界に遊んだ作品が並べられていて、大変ユニークで詩的な句集でした。
恩師みな天上のひと辛夷咲く
「辛夷」が季題で春。恩師はみな亡くなってしまってすでに天上のひとになっているのだなあと、辛夷の花の咲くのを見てしみじみと感じたという俳句です。辛夷の花の白さ、数、天に向かって花をつける様子は、恩師を偲ぶのにぴったりだと思いました。深い悲しみというよりは、むかし受けた教えなどともに恩師たちのことを回想しているのでしょう。心あたたまる俳句です。
緩やかに傾くハープ望の月
音階を走り抜けたる青蜥蜴
轟然と響く和音や草田男忌
古都深沈蓮の實ひとつ飛びにけり
双眸に映る十字架風光る
風葬の断崖遥か鳥帰る
香合の蓋の緩みや遅櫻
恩師みな天上のひと辛夷咲く
新樹光マリオネットの足跳ねる
千一夜過ぎし朝や蟬の殻
伏兵の息の根止めよいぼむしり
聖槍を包みし微光木菟眠る
冬晴れやピカソの青を打ち砕く
テーブルにギリシャの銀器冴え返る
慈悲心鳥青きロザリオ握り締む
夏怒濤ニーチェの言葉諾へり
秋の蝶献花の列を横切れり
凱旋の戦車に投げよ黒薔薇
偶像を砕きし夏の鏃かな
向日葵や死は垂直に降り来たる
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