荒井良子句集『森の言葉』。

俳人協会の講座委員でご一緒させていただいている荒井良子さんから、句集『森の言葉』(平成18年8月、ふらんす堂刊)をいただきました。ありがとうございます。
単刀直入、率直な表現が魅力的でした。
噓つきし記憶かすかに霜焼す
「霜焼」が季題で冬。大人になってからは霜焼けができることもあまりないですが、珍しく霜焼けができたのでしょう。たびたび霜焼けを作っていた子供の頃を思い出していると、やがて子供の頃についた「噓」を思い出したという俳句です。おそらく子供の頃には嘘をついたことを正直に言えなかったり、謝れなかったりしたのだと思います。そのことが心に引っ掛かっていて、久しぶりに霜焼けとともにちくりと思い出されたのでしょう。誰にでも、この種の記憶はあると思います。「嘘」と言ったことで、共感できる句に仕上がったと思います。
口下手な教師となりて栗を食ふ
星月夜返事をしないままでゐる
つま先で揺らすサンダル夏の月
万緑の中で秘密を明かし合ふ
噓つきし記憶かすかに霜焼す
はじまりも終りも春の波の音
オルガンのぶかぶか鳴つて麦の秋
手紙書くと噓の約束して野茨
遠ざかるものを許して白木槿
安住の地とは蒲公英吹き飛ばす
泣く時はいつもげんこつ栗の花
無花果の裂けてどうしやうもない自分
会者定離空は芒の向かう側
手さぐりの明日水仙すきとほる
数珠玉の白さ言ひ分聞いてみる
付いてゆく暮らしは苦手鶏頭花
真正面から全身に滝の音
また虫の声書きなほす手紙かな
すすきすすき歩けば歩くだけ孤独
指さして涼しく星の名前呼ぶ
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