中本真人句集『庭燎』。

慶大俳句の後輩で「山茶花」同人の中本真人君から第一句集『庭燎』(平成23年8月、ふらんす堂刊)をいただきました。ありがとうございます。
宮廷の御神楽のご研究が本業で、神楽や祭、芸能を題材にした句が目立ちます。題材にのめり込まず突き放すことで「あはれ」を感じさせるような詠いぶりが良いと思いました。
落第の一人の異議もなく決まる
「落第」が季題で春。進級についての職員会議での出来事を詠った俳句です。成績が足りなかったのか、出席が足りなかったのか、ともかく一人の生徒の進級が職員会議ではかられて、一人の異議もなく落第に決まったというのです。だいたいこういう時には、担任であったりクラブの顧問が何とか救えないかと考えるものですが、それすらも出来ないほど及第には遠かったのでしょう。突き放して詠っていながら、決まった落第について作者も何かをこらえているような気がします。「決まる」と終止形で言いとめたことが、この迫力を生んだのだと思います。
競泳のぶつちぎりなる拳挙げ
弥陀の手のたやすく外れ煤払
火の点きしごとく暴るる蜥蜴の尾
ギアチェンジして稲刈機稲に入る
校門の半分閉まる夜学かな
島に着く物資に燕舞ひにけり
礎に一歩をかけて墓洗ふ
抑へたる目に涙なし菊人形
なまはげの顎擡げつつ盃を干す
夏瘦のネクタイ長く垂れにけり
包丁を押し込んで割る西瓜かな
傀儡のぺたりと倒れすぐ起きる
落第の一人の異議もなく決まる
御旅所にどつかり座り何もせず
古傷の上の生傷漆搔
僧に向き檀家に向きて扇風機
回送のバス涼しげに走り去る
ばつた跳ねガードレールをかんと打つ
炭竈を尻から這うて出て来たる
聞きとめし人事の噂年忘
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