藤永貴之句集『鍵』(第零句集①)。

DVC00150.jpg
 今月から、「夏潮第零句集の刊行が始まりました。第零句集とは、「若手俳人諸君のこれまでの成果『百句』を新書版程度の簡単な冊子に収録する(「夏潮」7月号「夏潮第零句集』シリーズ、購読のお願い」)」もので、これから毎月続々と刊行されます。

 その栄えある第一弾は、藤永貴之さんの『』です。慶大俳句の先輩で、現在は福岡で教員をなさっています。
 じっくり季題と向き合い、言葉を磨き上げた句が並んでいるという印象を受けました。臨場感で勝負するだけの客観写生とは違って、現実を離れた静かな詩境に引き込まれるような魅力を感じました。

  雲雀野のところ(どころ)の墳墓かな
 「雲雀野」が季題で春。雲雀があちこちに揚がるような野が広がっているのですが、そのところどころに墓があるという俳句です。「雲雀野」という広い場所を言っていますし、明るいイメージの季題であることを考えると、一般的な墓場というよりは小さな古墳を想像するのが自然だろうと思います。眼前ののどかな景を少ない言葉で詠った句でありながら、千年、二千年というスケールの時間と、その間に営まれてきた人間の生活まで表現しています。実に余韻の豊かな句だと思いました。

  外の闇に立ち開かりて豆を撒く
  波の端踏んで歩める恵方かな
  伊都國の夜の暗さや牡蠣啜る
  卒業の乙女らに何話すべき
  雲雀野のところ(どころ)の墳墓かな
  球磨川に瀬の名巌の名風光る
  蜻蛉が生まれ朝の日朝の月
  スリッパに海女の名、マユミ、カズ、ヒデヨ
  航海や滄海飛魚を吐きやまず
  抽斗をひけば聖書や夜の秋
関連記事
スポンサーサイト



0 Comments

まだコメントはありません